Ⅲ ジェラルド卿の謀─xⅴ
「で? 暗殺、来たんですか」
「来たよ~。もう久しぶりにすんごい戦ったよ! ミッシュに見てもらいたかったくらい」
絶対惚れ直すよあれは! とのたまう父に、クロシェはそこはかとない疲労を覚えた。
はあそうですか、と平坦な口調で返事をすれば、冷たい子だねえと不服そうな顔を向けられる。
ミッシュ、とはクロシェの母の愛称だ。父が熱烈に押して結婚を「うん」と言わせたらしいが、二十五年が経った今も、両親の夫婦仲に問題はない。
「で?」
「倒したよ?」
そりゃもちろん、とにこにこする父は、「聞いて聞いて」と言外に匂わせる。仕方がないので無駄がふんだんに含まれた事の顛末を拝聴するも、結論だけ言えばフィルセインの抱える異能の一人を始末したと、そういうことだった。
フィルセインの抱える異能は、やたらと強い。それだけに、一人片付けられたというのは朗報だ。特徴を聞けば、サクラを狙っていたのとはまた別の輩のようで。
フィルセインは一体、どれほど前からこの反乱を計画し、何人の異能を飼っているのか……正体のつかめない不気味さは、今以て払拭出来ずにいる。
「セルシアの活躍はめざましいね? 私のところにもダールガット大勝利の報は入ってきたよ。しかも大胆だね。ちょっと見かけただけだけど、すごく小さな子だったのに。どうしてどうして、なかなかの軍略家じゃないか」
「いろいろと、驚かされることは多いですよ」
溜息をついて言えば、父はにまにまと含みのある笑顔でクロシェをのぞき込む。
「で? ジゼラの手紙によればお前はセルシアに『やられてる』そうだけど? 何か進展てあったのか?」
あいつめ、とクロシェは再び溜息をつきながら額に手をやった。
「一体、何と書いてあったのです」
「お兄様はあのちっちゃな女の子に骨抜きにされています。お父様からびしっと言ってください。じゃないと、お兄様に少女趣味の噂が立ってしまいますわ、って」




