Ⅲ ジェラルド卿の謀─xⅳ
それだけ言うと、お休みなさいませ、と上掛けをかけて目隠しのレースを引き、サンドラは静かに出て行った。
自分もやるのに……と思いながらも、サクラはふわふわとした微睡みに攫われ、いつの間にか心地良く眠りについていた。
そして翌朝。
デュエルの姿が村から消えていることを、朝食の席で知らされたのだった。
*◇*◇*◇*
「いや~、ホント助かったよ。セルシアにお礼言っといて」
重篤……って、何。とクロシェは目の前でピンピンしている親父殿に、軽い怒りすら覚えながら対峙していた。
クロシェが軍を率いて行く前に、サクラが勅書を飛ばしてくれたお陰で、各営所から騎士や兵を吸収することに時間はかからなかった。しかし領地をほとんど横断する形になる三千五百名での移動は、急いでも三日を必要とした。途中、クロシェは前線の様子を探らせ、隊を三つに分けた。一隊は敵軍の横腹を衝く形で突撃、混乱させ、判断力を失った軍の自滅を誘起、混乱したところを別の隊に挟撃させる。そしてもう一隊で、アットゥディーザ軍の駐屯地へと攻撃をかけた。これは精鋭でもって当たらせ、確実に潰滅、戦線を後退させる。クロシェ自身も、横腹を衝く突撃隊で先鋒を務めたあとは、瓦解し始めた敵軍を見て転戦、戦線を押し戻すために走り回った。
父が率いる軍は統率が取れてはいるものの、決定打には欠けるようで、戦線が維持されている状態ではあった。重篤、との知らせがあった以上、率いているのは誰なのか。戦線を押し返したクロシェは、本営へと急ぎ。
重篤という名のもと、足を軽く負傷しただけの父に対面したのであった。
「父上……」
どれほど皆が心配したと思っているのか。
「あ、怒るなよ? ちゃんと作戦だったんだから」
息子の怒りを見て取ったのか、先回りした台詞に一応問い返す。
「作戦?」
「アットゥディーザ伯爵を暗殺した人間をあぶり出そうとしたんだよ。私が重篤だと本陣に引っ込めば、暗殺しに来るだろうとね」




