Ⅲ ジェラルド卿の謀─ⅻ
「お諦めください。これも『セルシア』としての仕事の一環です」
「不参加に出来ないもんでしょうかね……」
「王の体面に泥を塗ることになるので、あとが面倒です」
「二時間、我慢してください」と言われ、サクラが「かくなる上は兵糧が尽きるギリギリまで駐屯していたい」と呟けば、どれだけ嫌いなんですかと笑われる。王宮の宴における、あの身の置き所のない感じは、また体験したいものではない。長官たちを侍らすことで降ってくる、嫉妬の視線も痛すぎる。
「それより、また妙なのに懐かれましたね」
妙なの? と問えば、「同じ年だと抜かすあの小僧です」とデュエルをほのめかす。
「サクラ様に庇護欲をかき立てられるのでしょうが。リクといいあいつといい、もう少しわきまえないものかと思って。見てると少々どつきたくなる」
「あー……クレイセスがさっき、果物つかむみたいに頭鷲づかんでました」
言えば、サンドラが愉快そうに笑う。
香油の入った髪をまとめて留めると、「お手を」と言い次は爪の手入れをしてくれる。もうされるがままになっているが、こうしてのんびりしていると、体が強ばっていたことを認識した。
幕舎内をやわらかく充たす香油の薫りも、リラックスに一役買っている。
「デュエルさんて、何者なんですか?」
「このあたりによく仕入れで来るのは間違いないようです。ただ、彼が目当てにしていた毛が取れる家畜もほとんど失われてしまいました。死ぬ目に遭ったとは言え、手ぶらで帰るのも都合が悪いのでしょうね」
商人はそういうところ、たくましいので、とサンドラは微笑む。
「ただ、サクラ様に感謝していることは本当です。気がついて最初に謁見を願い出たときには、殊勝な態度でしたよ」
「殊勝……?」
サンドラの言うことが今ひとつ想像出来ず、サクラは眉間に溝を作る。
確かに、彼の態度はフレンドリーというか、……なれなれしい。




