Ⅲ ジェラルド卿の謀─ⅶ
雨にもかかわらず、いや、雨だからこそ。
世界は、輝いていた。
サクラがひとしきり歌い終えたとき。
雲が晴れ、明るい日差しがやわらかく降り注いだ。
もはや黒く焦げたところはなく、一面美しい緑に覆われた草原。燻ったにおいもなくなり、真新しい若草の薫りが雨のにおいと入り混じって立ち上る。
村があった痕跡もなくなってしまったが、間違いなくレア・ミネルウァの一部が再生した。旺盛な生命力に満ちあふれた光景に、立ち会った皆、しばらくは言葉も出ない。
草の丈はサクラの腰ほどまで伸び、サクラは半ば埋まっている状態だ。光響の名残を残すそれらをかき分け、クレイセスが迎えに来る。
「サクラ」
穏やかな顔に、眩しいものを見るような笑みを浮かべた彼は、問答無用で裸足のサクラを抱え上げ、濡れているにもかかわらず、肩に座らせるようにして歩き出した。
「あなたが見せてくれるこの世界は、いつも美しい」
クレイセスの言葉に、サクラも面映ゆい気持ちで笑った。
駐屯するオクトランに戻れば、同じ現象はここにも起きていたらしく、ここもまた、出て行く前とは比べものにならないほどの活気が、空気中に満ちているのを感じられた。
興奮を隠せない様子の皆に総出で迎えられたサクラだったが、それをどうしていいかはわからず、そそくさと幕舎に戻り、濡れた服を着替え始めたのだった。
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