Ⅲ ジェラルド卿の謀 ─ⅵ
さわさわと、サクラの耳に小さなたくさんの声が聞こえる。
「何かを訴えてるたくさんの声が……」
言えば、ガゼルが「え?」と顔を引きつらせた。
ガゼルが心霊現象が苦手だということを思い出し、ここが殲滅された村であることを思えば鎮魂から漏れた者がいると考えるのも無理はないかと笑いつつ、サクラはガゼルの発想を否定しておく。
「いえ。多分、ガゼルさんの嫌いな殴れないヤツじゃないです。これは……」
サクラは声に導かれるように雨の中に飛び出し、焦げた大地に触れた。屈んで耳を近づければ、声は大きくなる。
「あ……」
生まれたい。
芽吹きたい。
光を浴びて歌いたい────!
無数の命の声に、サクラは微笑んだ。
「サクラ様⁈」
サクラはヒールを脱ぎ捨て、「みんなはそこにいて」と言うが早いか、焼けた草を踏みしめて駆け出した。そのあとに、イリューザーが続く。
サクラは、雨天に向かって声を放った。
(生まれておいで)
この雨の降るところ、すべての命よ。
(生まれておいで)
「すっげえ……!」
雨が、光響を起こす。虹色に輝きながら、雨粒が空から降り注いだ。
それを受けた大地が金色に光り始め。
「!」
いくつもの細い光の柱が、天に向かって屹立していく。
「なんだ⁈」
目の前の光景に目を奪われていた誰もが、足許の変化に驚いた。
金色に光った大地から、次々と新しい若葉が芽吹き、一気に成長を遂げていく。そうしてサクラの歌声に合わせるかのように瑞々しい音を放ち、生まれたばかりのそれらは美しい虹色に輝いた。
「セルシア、マジすげえ……!」
デュエルの興奮した声に、近衛騎士たちは誇らしげな気持ちで表情を緩める。サクラの歌声は湧き起った風に運ばれ、広く広く届けられていく。
見渡す視界のすべてが、とりどりにきらめきながら降りしきる雨と、光響の海。




