Ⅲ ジェラルド卿の謀 ─ⅴ
誰一人助けることの叶わなかった悔恨を胸に、鎮魂の歌を、サクラは歌う。
不思議なことに、この歌では光響は起こらない。ただ無数の魂だけが、白い光を放つ蛍のように、中空へと湧き上がる。
やがて小雨が降り出し、魂は溶けるように消えていった。
「サクラ、濡れてしまいます。通り雨でしょうから、そこの木陰に」
雨の中、溶けゆく魂を見送るサクラに、クレイセスが駆け寄りマントの陰にかばう。
サンドラはクレイセスの様子が変だったと言っていたが、顔を合わせたときにはいつもとまったく同じで。動揺してるのは結局自分だけかと、もやもやした気持ちにはなった。しかし態度を変えればそれこそ「お子ちゃま」な気がして、精一杯「普通」を装っている。
サクラは頷いて、かばわれながら木陰に走った。
「すげえな……鎮魂の儀式って、魂見えるんだな」
デュエルが率直な感想を述べ、この場に似つかわしくないほどの笑顔を見せる。彼は隙あらば、サクラに話しかけてきた。身長は百七十五センチほどだろうか。この世界では小柄でもあり、ひょっとすると年齢は近そうで、時間があれば同じ年頃の彼から見えるこの世界のことを、聞いてみたいとは思っていた。
人懐こいのか、商人として培われたコミュニケーション能力なのか、長官たちにも尻込みしない。テティアは時折、心配そうに彼の言動をつついている。
サクラは木陰で小雨を眺めながら、思いつく限りの、雨が歌詞に含まれる曲を小さく口ずさんだ。
この程度の歌い方だと反応があるのは四、五メートル程度。しかし光響は弱々しく、やはり色をなくしたものだ。輝きはわずかで、淡く、白い。
ここが虹色の光響を取り戻すまでに、一体どれほどの時間がかかるだろうとぼんやりと思いながら歌っていると。
「……? だれ……?」
歌を途中でやめたサクラを、全員が怪訝な顔で見つめた。




