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Ⅲ ジェラルド卿の謀 ─ⅳ

「そう言えば、殲滅(せんめつ)された村というのは、近いんでしょうか。隣村ってテティアさんは仰ってましたけど」

「馬を飛ばせばここから一時間ほどのところです。行きたいのですか」

「はい。もしかしたら、生き残ってる人がどこかにいるかもしれません。それに……本当に何も残ってなかったとしても、鎮魂の儀式をしたいです」


 サクラの希望に、「承知しました」とサンドラが微笑んだのに、サクラはほっとする。用意された朝食を急いで食べ、村長との接見へと臨んだのだった。


*◇*◇*◇*


 毒に倒れていた若者は、名をデュエルと言った。近隣の街で商いをしており、ここには家畜の毛を求めて来たのだという。交渉をしているときにフィルセインの軍がなだれ込み、とりあえず散って姿を隠せと言われて茂みへと隠れたが、一昼夜飲まず食わずのところで井戸を見つけ、飲んだところで意識を失ったという。


 そして隣村へはテティアが案内するというのを、なぜだか彼までついて来た。商人としてどの程度のことになっているのかを把握し、帰って触れ回ると言う。食い下がる彼に、邪魔にならないことを条件にサンドラも許可した。


 オクトランの復興の指示はバララトに任せ、クレイセス、ガゼル、サンドラと、ほかに三人の近衛騎士とともに隣村ノルトへ到着する。


「ひどい……」

 林を抜けると、見渡す限りの焼け野原。


 サンドラの手を借りて下乗したサクラは、焦げた臭いが充満する場所を、呆然と眺めた。


 これまでに見たことのない規模の、火災の跡。


 すべてが黒い。このあたりはほとんどが木造建築だったのか、焼けて崩れ落ちた塊が距離を置いて散見される以外に、人が住んでいた形跡はなかった。ぽつぽつと、焼けてなお立っている木が大地に刺さる杭のようで、痛々しさを増して見える。


 曇り空の下、サクラは自分たちのほかには生きている気配のないそこでは、出来ることはただ鎮魂のみということを、悟るよりほかはなかった。

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