Ⅲ ジェラルド卿の謀 ─ⅲ
はっと思い出し、自分の脳が勘違いしそうになったエラル襲撃の夜を思い出す。しかし、そういった側面に何度も遭遇している彼が、いまさらその程度でと思わないでもない。
ならば話を簡易にするために、仕掛けられたとしか思えなかった。王宮の花形だ。サクラが読んできた小説の中にも、異性ならばハニートラップを仕掛けて情報を手に入れるというような話はいくつもあった。あの容姿と人気、宮廷なら容易く目的とする情報を手に入れられそうだ。
クレイセスが気にしているのはレア・ミネルウァとの約束と、サクラの過去。そして多分、クロシェとの仲だったのだろう。時折感じる物言いたげな視線はきっと、進展具合を確かめたかったのに違いない。
「考え込んでばかりですね」
「え? あ……」
髪を結い終えたサンドラが、うしろから鏡の中で微笑んでいる。
「サクラ様をそのように悩ませるほど、クレイセスは何を────」
そうしてふと表情を厳しくする。
「不埒な行いでもしたのでしたら、即刻成敗して参ります」
「いやしてない! してないので成敗しないでください!」
この四人の間で、実力にどれだけ差があるのかは知らない。しかしサンドラは、いかなる手段を用いても、やるといったらやるだろう。
「力になれることがありましたら、お話ください。サクラ様のお顔が曇るのは、あまり見たくない」
そう言って笑うサンドラに、「ありがとうございます」と微笑む。
「お食事をなさったら村長が拝謁を求めています。それに昨日の若者も。テティアは村長の息子だったのですね。我々に対しても拝まんばかりの勢いでした」
「そうですか。生き残った村の人は、だいたい保護出来たんですか?」
「はい。我々の軍よりもずっと少ない、三百人ほどのことですが」
そもそも集落の規模が千人に満たないほどだと言われたが、半数以上が失われたのだという事実に、胸が痛む。




