Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅹⅺ
サクラは、それがなんの問題なのだろうというような顔で見ている。彼女には、異腹の兄弟が仲良く手を取り合う美談に聞こえるだろう。
「兄は、領民に慕われています。父や俺の名で手腕を発揮し、自分は徹底して表に出ない。秘書としての領分をわきまえ、血筋を盾に振る舞うことは一度だってありません。俺はね、サクラ。カイに、アリアロスを継がせたいのです」
「ああ……そういう……」
結論に得心したのか、サクラの表情が和らいだ。
「俺が死ねば書類上は簡単です。ですが、それではカイも気に病むでしょう。俺は、正当な形でアリアロスを離れる理由を探していた。あなたがこの世界を離れるなら、俺はそこについて行く。従騎士の誓いを、違えることはありません。そして兄は、ようやく本来の場所で、本領を発揮出来るようになる」
この話で、「利害の一致」を見たかどうかは、サクラの反応では判然としない。しかし、「逡巡」させることには、届いたようだ。
黒い瞳が揺れるのに、クレイセスは言った。
「約束です。最奥に戻ったら、聞かせてください」
無言のままのサクラだが、彼女の性格上、反故にされることは心配していない。聞いてしまった以上、約束は果たされるだろう。
「カイさんに……ガゼルさんは、会ったことがありますか」
ガゼルが一時期をアリアロスで過ごしたことを知っているサクラの質問は、カイという人物を別の視点から探ろうとするものだろう。
「ありません。ガゼルが領内にいるとき、俺はカイのところには行かなかった。カイはね……父に、よく似ているのですよ。ガゼルに引き合わせでもしたら、きっとすぐにすべてを了解するでしょうからね」
なるほど、とサクラが呟く。
「じゃあ、領内では割と有名なこと?」




