Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅹⅷ
しかし。
グルルルルル……と、イリューザーが威嚇音を発しながら頭を上げたのに、大きく息をつく。イリューザーが威嚇するということは、サクラは恐怖すら感じているのだろう。
ゆっくりと手を放せば、パッと胸の前に隠す。
「そんな真似までしなくても」
からかわれてると思ったのか、拗ねているときの声音に、クレイセスがムキになった。
「今のでは信じられないなら、その先で証明しましょうか」
言った瞬間。
「ぶっ……」
枕が顔を直撃した。
「男の人のそれは信用してないです」
視線を合わせないまま言われるそれに、枕を戻しながら「手厳しいですね」と笑う。まさかの反撃に、熱くなっていた頭は冷静になれた。
「信用できなくなった理由も伺いたいところですが、まずは聞いていただきましょうか。ガゼルもサンドラもクロシェも、そしてハーシェルも知らない話です」
言えば、ふて腐れた雰囲気を醸して前を向いたまま、チラリとこちらを伺う。さあ振り向けとばかりに、クレイセスは結論から述べた。
「俺には、五つ上に兄がいます」
「は……?」
ぎょっとしたように、サクラはクレイセスの思惑どおりに振り向いた。
「え? だって、公爵家の嫡子って……」
「書類上はそうです。彼とは母が違います」
それにピンと来たのか、サクラは目を丸くして確認する。
「ええとそれはつまり……アリアロス卿に、愛妾がいるってこと……ですか?」
「端的に言えば、そういうことです」
肯定すれば、サクラは「それでなんでクレイセスが家を出たいに繋がるんですか」と眉間に皺を寄せる。
「母は、結婚して三年経っても子供が出来なかった。父には年の離れた弟がいますから、最初はそちらから養子を迎えることも考えたそうです」
クレイセスの話を、サクラは黙って聞いている。




