Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅻ
サクラが宿泊する幕舎はすでに調えられており、クレイセスはすぐに寝台に寝かせる。
イリューザーが心配そうに覗き込むのに、クレイセスはやはりただの体調不良とは違うのかと、顔にかかった黒髪をよけてやりながら不安を覚えた。
「レア・ミネ……ウァ……」
かすかに呟かれた声に、苦しげに表情が歪んだ。そうして、何かを追うように手が宙に向かって伸びる。
次の瞬間。
「ユリウスさん……!」
叫び、目を見開いて跳ね起きた。
「サクラ」
呼びかければ、ゆっくりと焦点がクレイセスに向き。
「クレイセス……ユリウスさんが……」
どっと溢れる涙に、何を視たのかと視線で先を促す。
「殺されたかもしれません……」
穏当でない単語に、クレイセスは冷静に尋ねた。
「なぜ、そのように?」
「ただの夢ならいいです……彼は、あなたたちみたいにフィデルを持ってる訳じゃないから……生死を正確に判断は出来ません。でも、あんまりにも生々しくて……」
跳び起きるほどの夢だ。ろくな内容ではなかったのだろう。
自分が泣いていることに気が付いたサクラは、掌も甲も使い、ゴシゴシと目を擦る。
「疲れていて、おかしな夢を見たのかもしれませんよ」
「それなら、いいんですが……。リシュティーノ様の予言の違和感……これだったのかって……」
「予言の、違和感?」
問えば、サクラは震える声で説明する。
「リシュティーノ様はエラルさんのことは言っても、ユリウスさんについては、何ひとつ言及なさいませんでした。シェダルさん、言ってましたよね。リシュティーノ様は人の死期については、予言しないって。リシュティーノ様はきっと、ユリウスさんが傍に残っていたことはご存知だったはずです! そこで、気付けなきゃいけなかったのに……!」




