Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅺ
(あ)
(まずい……)
サクラは、ぼんやりと月夜に浮かび上がるその光景を見ながら、クレイセスに謝った。
「クレイセス……ごめんなさい」
「何がです?」
体調に留意するよう、あれほど言われていたのに。
「急激に……異常な、眠気が……」
言いながらも、立っているのかいないのか、定かでないほどの浮遊感に包まれ、サクラは意識を手放した。
*◇*◇*◇*
「サクラ?!」
申告とほぼ同時に傾いだ体を、クレイセスは受け止める。
呼吸、脈、ともに異常はない。
「団長、サクラ様は一体……?」
周囲を警戒していた騎士の一人、カイザルが振り向き、突然意識を失った主に駆け寄った。
「疲れただけだろう。発熱もしていないし、ほかにも表立った異常はない。治癒の力を使うと、著しく体力を消耗するようだからな」
「眠っておられるだけ、ならば、良いのですが……」
厳つい顔に浮かんでいた不安が、少し和らぐ。
こんなときに、補佐官がいないことは悔やまれた。力を使って、どのような変化のもとにあるのか……自分たちでは、視えない。異能には視えるという、力の炎。それが自分たちにも視えたらいいのにと、こんなときには切に思う。
クレイセスは井戸の水を汲み上げさせ、イリューザーに検品を求める。イリューザーはくんくん嗅いでから、ペロリと水を口にした。
これで、この村にある水場はすべて正常を取り戻した。復興作業を進めるにも、水源は重要だ。
「戻るぞ」
「はっ」
サクラに衝撃を与えぬよう、クレイセスは細心の注意を払って幕舎へと戻る。途中、平原に額付き、感謝を述べるために拝謁を求める村人の群れに遭遇したが、今は水を浄化して倒れたことを告げれば、心配といたわりの言葉を口々にかけられ、素直に通してくれた。




