Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅸ
「……そうか。オルゴンは毒物を決して口にしないと言います。イリューザーに判別させるのが一番安全です」
「うわぁお……」
クレイセスが思い出したようにそう言い、イリューザーは喉の渇きもおさまったのか、満足そうに口の回りを舐める。
「わたしにもください。歌ったら、喉渇いたので」
言えば、クレイセスは釣瓶を投げてもう一度汲み上げ、すぐに自分も口にした。やはりサクラが口にするものの確認は怠らない。そうしてから、サクラに桶を寄せる。サクラは手袋を取り、桶から水を掬い上げた。
「ん……ここのお水、おいしい」
「ですね。甘みすら感じます」
ほどよく冷たい水は、知らず緊張していたサクラの気持ちも潤した。
「何カ所かありましたね。それほど多くはなかったし、早くまわってしまいましょう。水が使えたほうが、復興もしやすいでしょうし」
「それはそうですが。サクラ、あなたは体調を十分考慮してください。今は、動けなくなるほど頑張ってはいけません」
クレイセスの言葉に頷き、サクラは次の場所へと移った。
満月が、静かに平原を照らす。
セルシア軍二千の野営地としては十分な広さ。そこに簡易の青い幕舎がいくつも建てられていく。傷ついた村人たちの手当に、温かい食事、寝床の提供。ガゼルとサンドラの指揮のもと、それらが最優先に行われていく。
サクラはそういった動きを移動しながら眺めつつ、教えられた水場をひとつひとつ浄化していった。
小さな泉が毒され、枯れかけているのを浄化したときには、泉が星空のように輝いたかと思えば、天の川を湧出するような流れを取り戻した。そのときには目の前の幻想的な光景に、しばし全員が見入ってしまった。
しかし、最後の井戸に来たとき。
「おい、しっかりしろ!」
先駆けた騎士が声を上げるのに、緊張が走る。




