Ⅰ 春希祭(キアラン)─ⅲ
そんな訳で、最近サクラの真横には、バララトとアクセルがいることが多い。ついでに言うと、アクセルが手首に仕込んだリボンは、ラツィアが使っていたものだ。あんまりにも新しいと疑われるよという先輩の助言に、素直に従った念の入れようである。ラツィアには、彼女が憧れていた新しいレースのリボンと引き換えてもらったのだとか。
「そう言えば、今夜でしたね。お支度はよろしいのですか」
時計を見て思い出したように言ったバララトに、サクラも予定を思い出す。
「あー……そうでしたね。サンドラさん戻って来てくれないと、あのドレス、一人じゃ着られないんですよね……」
今夜は、春を希う祭り「キアラン」が開催される。本来ならもっと前に行われる祭りだが、フィルセインの侵攻騒ぎで出来なかったものだ。祝勝会も兼ね、セルシアがいるうちにと、今日開催されることになっていた。
それに合わせ、背中を編み上げるタイプの華やかな白いドレスが献上されたのだが、ひとりでは着付けるのが難しい。すでに夕刻の四時を回っており、化粧や整髪を考えれば、そろそろ支度に取りかからねばならない時間だ。
サクラの身支度は、すべてサンドラが行っている。土地の娘たちの手を借りることも考えたが、やはり安全面においての不安を払拭出来なかった。
「あまりにも戻らないようでしたら、背中の紐を編み上げる、くらいは出来ますが。そこまではご自分で着られそうですか」
疲れた顔のクロシェが頭を起こして言えば、アクセルがぎょっとした顔をする。
「勘違いするな。手の掛かる妹と幼なじみがいると、そのくらいは出来るようになる。ついでに言うと、髪を結い上げるは無理だが、編み込みしてリボンをつけるくらいは出来るぞ」
「出来るぞって、言われましても。なんでジェラルド長官の理由ってどっか不憫なんですか。いっそ脱がせ慣れてるとかいう理由であって欲しかったです」
真顔で応酬する二人に、サクラは笑いを堪える。