Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅵ
少しして、近衛騎士たちが溜息とともに「でかかった……」と呟く。
「精霊って、あんなでかいもんなんすね……いや、こんなでかい木だから当然と言えば当然なのか」
厳つい顔をした騎士カイザルが、ぼうっと大樹を見上げたまま言うのに、サクラは笑う。
「リシュティーノ様を育てたっていう精霊は、もっとずっと小さかったですよ」
このくらい、と両手で示せば、騎士たちは納得したような顔になる。
「ああ、想像では精霊ってそれくらいでした」
「それに、ほかにももっと小さな精霊もいて。わたしが知らないだけで、王宮の森の奥には同じくらい大きな精霊がいるのかも」
「そうかもしれませんね。でも初めて見たのがまるで精霊の王のようで、圧倒されました」
今見上げた精霊への興奮を、皆が口々に述べ合う。
「しかし、ニットリンデンとは」
バララトが優しげな面差しを曇らせながら呟くのに、サクラは黙って次の言葉を待つ。サクラの視線に気付いたバララトは、少し困ったように言った。
「ここからそう遠くはありませんが、今はフィルセインが占領してしまっている。行かれるのであれば軍を進め、領地を取り返すよりほかはないでしょう」
「フィルセインの……」
「オクトランに行かれるのでしたら、そこからまっすぐ進軍するほうがいい。王都に戻られては、また時間がかかりすぎるかと」
バララトの提案に、サクラは気にかかっていることを口にする。
「ですが軍は、それほど連戦を続けて疲弊しないでしょうか」
「少なくとも、このダールガットでは疲弊も何も。ただの温存部隊になってしまったのです。士気は高いですよ」
そう答えたバララトに、そうですよ! とアクセルが賛同を添える。
「サクラ様はお気づきでないでしょうけど、光響の凄まじいのを見て、民衆も湧いたんです。で、セルシアを守ってる騎士すごい! ってなって、ちやほやされた連中はむしろ、来たときよりやる気に満ちてるんですよ」




