Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅴ
毎日通った成果なのか、今や光響は森全体のみならず、そびえ立つ山にまで影響を与え、岩肌が淡くきらめきを帯びるようになっている。初めて来た頃よりもずっと、瑞々しい息吹を感じられる一帯になったことは、サクラだけでなく、この土地に住まう民衆も感じていることだ。
歌い終えたサクラは濃く現れる光彩に手応えを感じながらも、少し淋しい気持ちで頭上を覆う枝葉を見つめた。
「戻りましょう」
そう言ったときだった。
目の前をオーロラに覆われたかと思って目を見開けば、大樹から抜け出るようにして、精霊が姿を現した。
『セルシアよ。礼を言う。そなたが与えし歌は快く、真に癒やしであった』
大きな大きな精霊だ。五メートルほどはあろうか、誰もが見上げるほどの大きさに、目を瞠った。緑色の瞳は、吸い込まれそうなほどに深い。
『そなたが進軍するのであれば、今しばらく耐えようぞ。我らの痛みは、深い。人の悲鳴を止めてくれぬ限り、キリキリと穿たれるかのようだ』
耳にも頭にも響くような声は、ユイアトと話したときと同じだ。
「その悲鳴は、まだ聞こえているのですか」
『聞こえる。今もまた叫んでおる。だから、皆消耗して出て来ぬ。ニットリンデンに行け。地下を見よ。楔を抜け』
「ニットリンデン……」
サクラには、覚えのない土地だ。
『人の作った領境など、我らにはわからぬ。しかし、レア・ミネルウァを癒やしたくば行け。我にも聞こえるのは、地を通した慟哭よ』
「教えてくださって、ありがとうございます。もうひとつだけ、訊かせてください。複数の力を統合し、延命する方法をご存知ないですか」
その質問に、ゆっくりと瞳を廻らせ、精霊は緩やかにも大きな吐息をついた。
『さあて……術を生成するのは王都近辺の精霊が担ってきたこと。我にはわからぬなあ』
「そうですか……ありがとうございました。ニットリンデンの楔、きっと対処します」
そう答えると、精霊は少しだけ微笑み。
大樹に吸い込まれるように、姿を消した。




