表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/218

Ⅱ アリアロスの秘密-ⅹⅴ

 毎日通った成果なのか、今や光響は森全体のみならず、そびえ立つ山にまで影響を与え、岩肌が淡くきらめきを帯びるようになっている。初めて来た頃よりもずっと、瑞々しい息吹を感じられる一帯になったことは、サクラだけでなく、この土地に住まう民衆も感じていることだ。


 歌い終えたサクラは濃く現れる光彩に手応えを感じながらも、少し淋しい気持ちで頭上を覆う枝葉を見つめた。


「戻りましょう」

 そう言ったときだった。


 目の前をオーロラに覆われたかと思って目を見開けば、大樹から抜け出るようにして、精霊が姿を現した。


『セルシアよ。礼を言う。そなたが与えし歌は(こころよ)く、真に癒やしであった』


 大きな大きな精霊だ。五メートルほどはあろうか、誰もが見上げるほどの大きさに、目を(みは)った。緑色の瞳は、吸い込まれそうなほどに深い。


『そなたが進軍するのであれば、今しばらく耐えようぞ。我らの痛みは、深い。人の悲鳴を止めてくれぬ限り、キリキリと穿(うが)たれるかのようだ』

 耳にも頭にも響くような声は、ユイアトと話したときと同じだ。


「その悲鳴は、まだ聞こえているのですか」

『聞こえる。今もまた叫んでおる。だから、皆消耗して出て来ぬ。ニットリンデンに行け。地下を見よ。楔を抜け』


「ニットリンデン……」


 サクラには、覚えのない土地だ。

『人の作った領境など、我らにはわからぬ。しかし、レア・ミネルウァを癒やしたくば行け。我にも聞こえるのは、地を通した慟哭よ』


「教えてくださって、ありがとうございます。もうひとつだけ、訊かせてください。複数の力を統合し、延命する方法をご存知ないですか」


 その質問に、ゆっくりと瞳を廻らせ、精霊は緩やかにも大きな吐息をついた。


『さあて……術を生成するのは王都近辺の精霊が担ってきたこと。我にはわからぬなあ』

「そうですか……ありがとうございました。ニットリンデンの楔、きっと対処します」


 そう答えると、精霊は少しだけ微笑み。

 大樹に吸い込まれるように、姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ