Ⅱ アリアロスの秘密-ⅻ
「ちょうど、近辺の営所について教わっていたところだったんです」
すごいタイミングで飛び込んできた話だった。それに、今日はクロシェが傍に付いていたことも、幸いだったと言えるだろう。
サクラが仕事をするときは、長官たちが大体日替わりで傍にいる。この世界の人間にとっては「いまさら」な、常識や文化の差異を埋める説明を要するためだ。今は砦の修繕や荒らされた土地の整備、機能しなくなった組織の立て直しを含め、軍として動かした騎士のすべてを動員している。長官たちは個々にそれらの指揮を執っていた。兵糧に関しては定期の補給路は確保できているし、この土地自体もそれほど荒らされていないため、駐留しておくに不安はない。
「それはなんというか、良いところに来た話でしたね」
ガゼルが笑い、部屋の隅に丸めてある地図を持って来て広げた。
「そうなると、号令を掛けられる営所は十四カ所ですね。勅書を出されますか」
頷けば、早馬の用意をしてきます、とガゼルが出て行く。
「我々も準備を。明日の早朝、ここを発つ。サクラは今からすぐに十六枚の勅書と、二枚の依頼書を書いてください」
「十六枚……ですか? それに依頼書?」
クレイセスは地図を示し、ここからほど近い直轄領内の営所二つを示した。
「こことここにも、召集をかけます。恐らく、この二千を退けても、子爵の軍とぶつかる可能性がある。連戦となれば人数はあとからでも補給出来たほうがいい。依頼書は、近隣に支店を持つセルシア御用達に。我々が王都で手配して来た物資では、不足するかもしれません。騎士団が一括で買い上げるので、必要なものを揃えて届けて欲しい旨を書いてください。商人は、我々とは違った輸送手段や経路を確保している場合も多い。騎士団を動かすより気付かれにくいので、非常時には有効です」
クレイセスは説明しながら、勅書を出すために必要な紙やインクを揃えていく。




