Ⅱ アリアロスの秘密-ⅺ
署名も印章もしっかりと入った、正式な《《依頼》》書。
あくまでも「王」と「セルシア」は対等であるということから、互いに対して「願う」「依頼する」ことは出来ても、「命令」は出来ない、ということらしい。
「うわあ……さすが、ですねえ……」
サクラはそんなことをちらりとも思いつかなかったが、クレイセスには三つの領地が接している場所と近いダールガットで戦うことは、当初から懸念されることだったのだろう。用意周到な彼の動きに、つくづく感心してしまう。
「フィルセインの軍……敗残軍二千が、村を襲ったということでしょうか」
ガゼルの問いに、サクラは先程受け取ったジェラルド卿からの書簡を差し出す。
「はい。村を襲ったのは、今回のダールガット戦の敗残軍です。伯爵の反乱に合わせて侵攻することは恐らく計画されていたと。アットゥディーザ伯爵の名前で兵が動いていますが、本人は殺されているだろうと記されています。伯爵の軍は二万。ジェラルド卿はフィルセインが落とした子爵領にも兵を割いていて、自軍はそれぞれ一万二千ずつだそうです。敗残軍に対する余力はないため、援護して欲しい旨が書いてありました」
サクラの説明を聞きながら、二人は卿からの書簡に目を走らせる。
ジェラルド侯爵領は、四つの領境と接している。そのうちの三つがフィルセインとの睨み合いとなっては、対処も大変だろうと、サクラは実際を経験してみて思う。このダールガットだけでも、処理しなければならないことは山積していた。そしてどれもが、緊張を伴うもの。
「二万……援軍としては、もう少し送りたいところですが、即席ではそれが精一杯ですね」
「よく実際と乖離しない数を指示されましたね。いつの間に把握されてたんです?」
クレイセスが言い、ガゼルが視線を上げてそう訊いた。




