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Ⅱ アリアロスの秘密-ⅸ

 ぐうぅっ……といううめき声とともに、背中から矢が抜かれた。

「まだ受けて間がないようですね。それほど締まってなくて良かった」

 時間が経てば筋肉が締まり、抜くために切らなくてはならなくなる。それが必要ない程度だったことは、幸いと言えば幸いだったのだろう。


 矢を抜く痛みから解放され、力を抜いてどっと床に倒れ込んだテティアの頭の包帯を、サクラは躊躇なくほどいていく。


「な……にを。いけません。お手が、(けが)れます……」

 息も絶え絶えにそう言うテティアに構わず、サクラは裂創(れっそう)の左目に手を(かざ)す。

 彼の全身にある傷という傷を癒やしてやりたくて、集中した。


「こ……れは……」

 自身の体が金色に包まれ、目に見える傷が消えていくのに、テティアが目を見開く。介添えする騎士二人の表情も、似たようなものになっていた。


 腕にずしりとかかる、重みとでも言えば良いのか。

 彼の傷が消えるごとに、その重みが消えていく。

 ふっ……と、指先から薄膜が剥がれる感覚がして、サクラは詰めていた息を吐く。彼の目は恐らくこれで、視力を取り戻したはず。


「目を……ゆっくり、開けてみてください」

 血の跡が残る顔面では確信が持てず、少し不安を含んで促せば、テティアは呆然と、言われるままに左目を開いた。


「見える……見えます! 見えます……!」

 体を起こしながらそう言い、傷の消えた両手を舐めるように見る。

「矢傷は? 痛みますか」

「いえ……いいえ! どこも、体のどこも、痛くありません……!」

 興奮気味にそう言うテティアの顔は、泣くかのような笑顔で。

 全身から力が抜けるような安堵感に、サクラも微笑んだ。

「良かった。なら、軍が整うまでの間、休んでいてください。わたしは傷を治せても、体力まで回復できる訳じゃないので」


 言って立ち上がったところに、イリューザーがクレイセスとガゼルを連れて戻って来た。


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