Ⅱ アリアロスの秘密-ⅶ
すぐにドカドカと複数の足音が近付いてきたかと思うと、執務室の扉が勢い良く開け放たれ、切羽詰まった声が危急を告げた。
「ジェラルド侯爵領オクトランより救援の要請が! おい、しっかりしろ! サクラ様の……セルシアのところに着いたんだ!」
二人の騎士に両脇を抱えられ、頭にも腕にも血の滲んだ包帯を巻いた全身傷だらけの男が、引きずられるようにして入って来る。騎士服ではないから、彼は恐らく、一般臣民なのだろう。
サクラが立ち上がって駆け寄ろうとするのを、クロシェが制止した。見上げれば、厳しい顔つきで無言のまま首を横に振る。
「申し……上げます。アットゥディーザ伯爵、反旗。領境にてジェラルド侯爵応戦の間に、隣村ノルト、フィルセイン軍の急襲に遭い、殲滅……! 我が村オクトランも、すでに半数が殺され……うぅっ……」
誰もが眉間に深く皺を寄せ、切れ切れの息を継ぎながら発されるその報告を聞いていた。
そして男は胸元を探ると、小さく小さくたたまれた紙を取り出し、震える手でサクラに向かって差し出す。
「また、途中……ジェラルド侯爵負傷により重篤との知らせを携えた伝令と行き会いましたが……追っ手にやられ……これを、ジェラルド長官にと、預かりました」
その言葉に、クロシェがサクラの隣を離れ、男が差し出した手紙を受け取った。ザッと目を通し、「確かに父の筆跡です」とサクラに差し出す。受け取って読めば、彼が知る限りの相手の事情や陣容が綴られていた。
「確かに受け取りました」
伝令に微笑み、表情を動かさないクロシェにサクラは命じる。
「クロシェ、ツイード。近衛から五人を、そして騎馬三千を率いてすぐに侯爵の救援に。早馬を出して各営所から千五百を吸収して反乱の鎮圧を。五人の人選は任せます」
「サクラ様……」




