表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/218

Ⅱ アリアロスの秘密-ⅵ

 言葉を交わす何者もいないが、歌うことを求められていることは、木々から伝わってくる。サクラは息を吸うと、思いつく片っ端から、春の歌を歌い上げた。


 古風な音調のもの、元気な曲調のもの、緩やかな旋律のもの。どの歌詞も恋の歌だが、相手を────レア・ミネルウァを、この森を思いやる気持ちを込めて、思いを放つ。




 何曲を歌っただろうか。

 光響はずっと続いていて、放たれる色彩の種類も濃度も濃くなった。木々が正常を取り戻しつつあることを、視覚として確認出来る。


「また明日……ここに来ます」

 全力で歌った一時間半。

 限界だった。


 まだ冬の名残を含んだ風は冷たいが、今のサクラには心地良い。

 歌い終えてもまだ盛んな光響に、少しは癒やせたかと、サクラは一度、営所へと戻ったのだった。



 それからは毎日、午前のうちに森へ、二時間ほど歌いに行った。


 通い続けて五日目。

 光響は森だけでなく、平原や街路樹にも広がり始めたとの報告があり、サクラはほっとしながらも、相変わらず現れない精霊や、接触してこないレア・ミネルウァに、漠然とした不安を抱いていた。


 午後は政務や学習にいそしみ、夕方には三十分ほどだが、サンドラに剣術の稽古を付けてもらう。体術は、寝る前に少しずつコツを教わっていた。体を動かすことは頭を使ったあとには心地よく、また苦手な人物や数字の羅列を相手にしたときには、気分転換にもなった。


 そんな、執務室で唸っていたある午後のこと。

 いるのはクロシェとツイード、足許にはイリューザー。近辺のセルシア騎士団の営所の把握と、それぞれに駐在する騎士の数、各営所の年間の歳入歳出や、今回動かした隊の説明を聞きながら、サクラは頭の中を整理していた。


 しかし。

 異変を察したのか、不意に二人が緊迫した空気を(まと)って扉を注視するのに、サクラもつられて手を止め、顔を上げる。


「申し上げます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ