Ⅱ アリアロスの秘密-ⅲ
*◇*◇*◇*
「深い森ですね……」
近衛騎士隊の準備が調うのを待って入った森は、昼間にもかかわらず、薄暗かった。王宮の裏手にある森と違い、ここは常緑樹が多い。しかしサクラは、初めて王宮の森に足を踏み入れたときと同じ────いや、それ以上の頽廃を、感じていた。
「どこまで行くのです?」
「もう少し先……人の生活圏から離れたところまで行きたいです」
クレイセスに答えれば、「では大樹のあるところではいかがですか」と、ガゼルと先に駐屯していた騎士から提案が上がった。そうしますと頷けば、わかりましたと皆は馬を進めてくれる。
真っ昼間だというのに、いよいよ暗い場所に、その大樹はあった。樹齢は一体どれくらいであろうか。十人がかりでも囲めないほどの太い幹、見上げれば枝は、それ一本が立木ほどもある太いものだ。しっかりと付いた根は雄々しく盛り上がりながら広がりを見せ、ほかの木々を寄せ付けないかのように、そのまわりだけが広い空間となっている。
「見事な木ですね……」
下乗したサクラは、王都の森の深くにも、このような木があるのだろうかと思いながら近付いた。根が盛り上がり過ぎて、幹にまで近寄れない。
「サクラ様⁈」
サクラは踵の高い靴を脱ぎ捨てると、騎士たちの驚嘆を置いて身軽く根を駆け上がって行く。そのうしろを、イリューザーが付いて来た。
木肌はなめらかで、踏みしめる足に心地いいほどだ。
「サルですかあなたは」
少し遅れて、従騎士たちも駆け上がって来る。クレイセスがあきれたようにそう言い、ガゼルはくつくつと笑っていて、サクラの行動を面白がっていた。
「ごめんなさい。でも根っこじゃ全体の状態がわかる気がしなくて」
「別に淑女らしくない行動を責めてはいません。ただ、一人で飛び出さないで下さい。またエラルのときのような襲撃がなされたなら、距離があっては対処出来ません」




