Ⅸ 陰謀の切っ先─ⅹⅶ
(さらせ……!)
その姿を。
自分に見せろ。
はらわたが煮えくりかえるような熱さに対し、頭は不思議に冷えていた。
黒ずくめたちは邪魔にならないようにか、自分たちから距離を置いている。
サクラは目には見えないものの、地面に淡い影が生じていることに気が付き、それを視線で追った。クロシェも気が付いているのか、その影に対して必ず正対するように動き、盾になるように右腕でサクラをかばう。メイベルが何かを叫んでいるが、サクラにはもう、何かの音にしか聞こえない。
きゅっと唇を引き結び。
(────見えた)
サクラはクロシェの背から飛び出した。
「サクラ様!」
クロシェの焦燥を含んだ声を聞きながら強く地面を蹴って飛び上がり、サクラは迷わず手離を斜め上に振り抜く。確かな手応えとともに「おおおおおおお!」という咆哮のような声が上がり、姿を現した異能は額を抑えて剣を取り落とした。それをクロシェが素早く拾い。
目の前で叫ぶ異能を貫き、そのまま周囲の黒ずくめをも片付ける。
それは一分にも満たない、ほんのわずかな間のこと。
「────っくそ、あの女……」
今の間に逃げ出したのか、メイベルの姿は見えなくなっていた。
剣を地面に突き立て、縋るようにして膝をついたクロシェに駆け寄り、サクラは抱き締めていた腕を傷口にあてがう。
「いけません、サクラ様。今のうちに、お逃げください」
苦しげにそういうクロシェの顔色は、まるで死人のように白い。今の彼が気力だけで動いていることは、サクラにだってわかっている。クロシェが黒ずくめを倒すため、舞うたびに大量の血が飛び散った。周囲を染める血のほとんどは、クロシェのものだ。
「いけません、サク……」
「黙って!」
サクラは堪えきれず、泣きながら叫んだ。
腕を繋ぐべく、傷口に集中する。
抑えていなくてはずれてしまうため、あふれ出る血の上から両手で固定したのに、息も絶え絶えなクロシェの表情が歪んだ。
クロシェの体が金色に光る。




