Ⅸ 陰謀の切っ先─ⅹⅳ
はっとしたように目を開き、サクラの姿を認めた瞬間、がばりと上体を起こす。
「俺は、一体……? サクラ様、が……なぜ」
「ここはエルネスト公爵夫人の隠れ家みたいです。わたしは奇襲に遭ってここに連れて来られました。クロシェさんは?」
「俺は……街中で同時にいくつかの喧嘩が始まり……避けた先で男とぶつかった直後から、意識が」
「ああ。手に傷がありました。そのときにそこから毒を仕込まれたんですね。今は、どうですか? 痛かったり、痺れたりするところは」
「ありません……」
「じゃあ、これ、切ってもらえませんか」
掲げた両手首を見せれば、クロシェは上腕から手離を取り出すとサクラの縄を切る。
「夫人は、収集家でもあるみたいです。今はわたしの目をくりぬくための道具を準備しに行きました。出られるとしたらあの天窓でしょうか。人気がなかったら、廊下から出られそう?」
サクラの矢継ぎ早な提案に少し笑うと、クロシェは一度強く頭を振ってから寝台から立ち上がった。
「さすがに、剣はありませんね」
部屋の中を見回し、クロシェは小さく息をつく。
「サクラ様。廊下に人の気配はありません。ですがその天窓から逃げたと思わせるためにも、窓を開けたいのですが。抱えるので、窓を開けられませんか」
「ああ……抱えてもらえればなんとか届きそうですね」
クロシェに頷けば即座に抱えられ、「肩に立てますか」と言う。サクラは人の肩に乗るって結構不安定、と思いつつ、クロシェの肩に立って天窓に飛び移った。鍵を開け窓を開け放てば、庭らしき場所が見える。貴族の屋敷にしてはとても狭い。日本の戸建て売り程度の広さで、手もそれほど入れられていない、荒れ始めた感じの様相だ。
サクラは外に見張りらしき人もいないことを確認すると、天窓から飛び降りた。それをクロシェが大きな音を立てないよう受け止め、下に降ろす。




