Ⅸ 陰謀の切っ先─ⅹⅲ
クロシェを助け、サンドラを助けに行かなくては。彼女はとにかく、逃げて生き延びることが大事だと自分に教えた。
「悲鳴を聞かせたら起きるかしらね? ああでも、彼女の悲鳴だから起きた、なんてことならかなり妬けてしまうわ。なんたって誰にも見向きもしなかったクロシェが、執心しているんですもの」
そうなった原因は間違いなくあなたですけどね? と思いながら、サクラはゆっくりと手首を動かす。縄抜けも教わったのだが、成績は今ひとつだった。
道具の準備をしなくては、と出て行く公爵夫人の気配。
同時に男の気配もなくなった。
サクラは扉がしっかりと閉じた音を確認して、上体を起こす。足の紐をほどいて立ち上がれば、寝台に寝かされているのはやはりクロシェだ。
「クロシェさん、クロシェさん」
腕を少し揺らしてみるも、目を開く様子はない。顔色は悪く表情も苦しげで、うっすらと汗すらにじんでいる。先程の会話から致死でないとはいえ、毒を仕込まれたのだろう。傷口はどこだ。癒やせればクロシェが動けるようになるかもしれない。
サクラはクロシェの全身を見て、左手の甲に走った傷を見つける。手離がかすった跡だ。ほかに傷らしきところは見つからず、全身に回っているらしい毒を手から治せるだろうかと、サクラは手に触れるか触れないかの距離で両手で包むように翳し、集中した。
クロシェの額に、フィデルが色濃く浮かぶ。
彼の忠誠に刻んだ癒やしの力が、すでに毒に反応しているのだとわかる。手の甲の傷は見る間に治ったが、果たして体内を巡った毒はどうなのか。
「クロシェさん」
もう一度呼びかければ、長いまつげが震えた。




