Ⅰ 春希祭(キアラン)─ⅹⅹ
「レフレヴィー長官とイリューザーのみというのも、相手の力量がわからない以上、有事の際には手が足りないことも考えられます。もうひとり二人、常の護衛を増やすべきかと。寝室も然り。侍ることをお許しいただきたい」
「いえ……それは大丈夫ですよ。エラルさんが姿を消したのは、あなた方近衛騎士たちを、フィルセインの刺客から守りたかったということも理由のひとつなんです。彼は、あなたたちと事を構えるつもりはありません。サンドラさんひとりで、十分です。それに……リシュティーノ様の遺言もあるので、エラルさんとの和解を図りたいと、思っています。現れてくれるなら、それをきっかけにもしたいので」
そう言えば、「リシュティーノ様の?」という疑問が、口々に上がる。サクラは簡単に、リシュティーノからの予言を皆に教え、エラルをなんとかしてこちら側につけたいことを伝えた。
流れる空気が微妙で、賛同とも反対ともつかない雰囲気が漂う。
「誤解が解けたなら、力になってくれると思います。そのつもりでいてください。誰かの前に現れるようなら、話がしたいことを伝えてくれませんか。わたしは、先代の力を得られるなら、これほど心強いこともないと思っています」
「それは……そうでしょうが……」
視線が合った騎士が、困惑したようにそう言うのに、サクラが微笑む。
「本当は、穏やかな人だったんですよね? それにわたしには、フィルセインの手先であるとの噂があるようです。多分、この土地にもありましたよね?」
確認するように言ったそれに、何人かに動揺が走った。
ダールガットに入って最初に感じたのは、戸惑いの視線。はじめは単にセルシアが王都を離れ、遠方に姿を現したことへの戸惑いかと思っていた。しかし、近衛騎士たちがサクラの耳に入らないよう気を遣ってくれていても、いろいろな場所を訪れる間に、それを耳にする機会はあったのだ。




