Ⅸ 陰謀の切っ先─ⅷ
先導するクレイセスの背を追うように、サンドラがサクラを乗せて追う。人通りが多く、道幅のそれほど広くない通りでは横に並んで固めることは出来ず、すぐうしろをシンがついて来る。
サンドラの腕に抱き込まれるようにして駆ける馬上、サクラの耳に人通りの側から放たれた何かがサンドラに命中する音を聞いた。
「! サンドラさん! クレイセス待って!」
「止まるなクレイセス、走れ!」
サンドラが叫び、サクラを外界から遮断するようにして馬を駆る。サクラがサンドラを振り返ると、汗を浮かべた余裕のない表情で、しかしサクラの視線を受けるとそれでも微笑んだ。
「必ず逃げ延びるのですよ、サクラ様。お教えしたことは必ず役に立ちます。勝とうとしなくていい。逃げるのです。わたしは、この程度で……は……」
サクラを抱き込んでいた左腕が緩む。サンドラがふわりとうしろに倒れるのに、サクラは手綱を引いて速度を落とせば、うしろから来ていたシンがサンドラを支え、かろうじて落馬を免れた。
異変に気付いたクレイセスもすぐに馬首を返し、サクラに手を伸ばす。
「サクラ、こちらに。シン、サンドラを頼んだ」
「御意」
「待って!」
短いやりとりに、サクラは首を振る。
「せめて治させて……!」
これは、知っている。クレイセスが刺客に倒れたときと同じ顔色。毒だ。
サンドラの腕には二本、脇腹に一本の手離が刺さっている。走りながら聞こえた音の正体に、サクラは震えた。
「ここでは危険です。サンドラの働きを無駄にしないでください」
クレイセスの厳しい言葉に、シンも「そうです」と頷く。
「サンドラ様は毒に馴らしています。……俺も、サクラ様との約束を違えるつもりはありません」
シンの言葉に、サクラは「絶対、ですからね!」と言えば、クレイセスがサクラを片腕で抱き上げて移すと、これ以上は問答無用とばかりに馬を走らせた。




