Ⅸ 陰謀の切っ先─ⅵ
「でも、日によって量はずいぶん違うかも。記録としては騎士団もしてくれてるんだろうなって思うから、感情的にどうこうなければ『本日のイリューザー』みたいなのちょっと書いて終わりの日もあるし。感情が振れすぎても、なんにも言葉に出来ないし。そんな感じでも、もう一冊終わってしまいそうなんですよね」
日記帳は三センチほどの厚みで、大きさはA4よりも少し大きいくらいの布張りの装丁だ。表に記録した年月日を自分で書き入れられるよう印字された紙が、本ならタイトル部分に埋め込まれている。色は赤だ。これは、歴代額に現れた印と同じ色を表紙として使うのだとかで、サクラが眠っている間に、ユリウスが用意させたものらしかった。
「そうでしたか。王都に戻るまで、保ちそうですか?」
「多分……」
「長期保存に向いている紙で製本されているので、同じものは王都にしかないのです。もしなくなってしまったら、戻ってからまとめて記録しておいてください」
頷けば、「ちなみに今日は何を?」と訊かれ、「エラルさんのことと、ときめき通信への驚きあれこれです」と答えれば、非常に微妙な顔つきをされた。
そのときに戻ってきたサンドラと交代し、クレイセスは出て行く。「クレイセスは一体?」とその微妙さに気付いたサンドラに問われて理由を話せば、彼女もやはり、「知られてしまいましたか……」と若干遠い目をして言ったのだった。
*◇*◇*◇*
翌早朝には営所を発ち、サクラ一行は急ぎ王都を目指す。それでもまだ、あと二十日を見込まれる行程だ。
「基本的には山間の道を行き、宿泊は営所。難しければ天候次第で野営。定期的に半数が食料の調達に街に行くことにします」とクレイセスに説明され、その形で順調に、距離を稼いでいった。
急いだこともあり、王都への到着を三日後に見込まれた、十五日目。




