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Ⅸ 陰謀の切っ先─ⅴ

「異世界から来たセルシアの心境を知りたいと願う者は多いでしょうから、気が向いたらこちらの言葉に書き換えてください。過去のセルシアの日記、面白いですよ」

「人によって違うんですか?」


 問えば、クレイセスが思い出したようにくすりと笑って言った。

「ええ。『記録』が苦手なセルシアは、『今日も異常なし』が何日も続いていたり。逆に書くことで気持ちの整理をしていたセルシアは、内容もときどき過激で、そんなときは乱れた筆跡が相手を名指しで、罵詈雑言(ばりぞうごん)が何頁にもわたって書かれている場合もあります。どちらも人間味にあふれていて、親近感が湧きますね」


「『今日も異常なし』でも?」

「もうそれくらいは手を抜きたいという、怠惰(たいだ)の姿勢が見えます。その記録を残したセルシアは今の福祉体制の根幹を整えた方ですが、こんな一面もあったのだなあと。ときどきそれ以外に見える記事は、議会で案が採決されて動き出すのに安堵したとか、近しい人間が亡くなったときの心境などですね。しかしそんなときでも、書きぶりは至極(しごく)理性的でした」


 へえ、とサクラは自分の前までのセルシアを思う。自分が確か二五六代だったか。ならば今までに二五五人のセルシアがいるのだ。この世界にも古代語はあるようだから、あまり昔のものは読めないだろうが、戻ったら今とそう変わらない表記になった頃からの日記は読んでみたいとも思う。


「一人ひとり、残してる冊数も違いそうですね」

「ええ。何十冊も残しているセルシアもいれば、数冊しかないセルシアもいます。在位期間の長短もありますが、やはり本人の性格にもよるのでしょう」

「それからいくと、わたし結構書きそうだなあ……」

「サクラは書くことがつらくないようですしね」


 クレイセスが笑ったのに、「まあ、嫌いではないです」と答える。この世界ではテレビもスマホもないため、最初のうちは不意に訪れた余白を持て余すこともあった。今は毎日が忙しくて、時間は足りないほどになってしまったが。


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