Ⅰ 春希祭(キアラン)─ⅹⅸ
サクラはさすがの連係プレー、と感心して聞いていたが、「アクセルは気が気ではなかったでしょうけどね」と笑い、「自分も心臓が凍るかと思いました」と、息が出来ないくらいに抱きしめられた。
「わたしを狙ったほうの武器は?」
問えば、ガゼルが答える。
「消えました。あれは、異能者が物質を具現化させたものでしょう。一瞬しか見えなかったが、いびつな成形のされ方でした」
「具現化……」
あれが、何もないところから意識だけで生成されたものなのかと驚きつつ、サクラは目の前の矢に、そっと触れた。
そして、残された気配にそうかと手を引っ込める。
「サクラ? 何かわかったのなら、教えてください」
「ええと……フィルセインでは、ありません」
咄嗟にうまい言い訳を思い付けず、迂遠な表現でごまかそうとしたサクラに、クレイセスが眉をひそめる。
「サクラ。気遣いは無用です。ここにいる連中はあなたを守るためにいる。何を聞いても受け止めます。何が、わかったのですか」
クレイセスの射るような視線に、サクラはどちらにしろ相対することになるなら一緒かと、ため息をひとつついて言った。
「先代……エラルさんの気配です」
騎士たちに、動揺が走るのがわかった。
短い在位期間とはいえ、姿を消したエラルの安否を気にしている近衛騎士たちは多いことを、ここに来るまでの旅の間で知った。敵としてまみえることは、心理的に避けたい相手だろう。
「なるほど。彼なら、生成も可能でしょうし、あの場から誰にも見られず姿を消すことも可能ですね」
サンドラの言葉に、長官たちが頷く。
すでに彼らは、イリューザーが送り込まれたのはエラルの仕業であることを認識している。しかし彼らとて、平気な訳ではないだろう。
「エラルさんは単体で、誰かと手を組んでる訳ではありません。またすぐに襲撃ということもないでしょう。今夜はもう、みんな休んでください。遅くまでお疲れ様でした」
「ですがサクラ様。エラルが相手だとすると、どこに現れるかわからない」
ガゼルの心配に、バララトが言った。




