Ⅰ 春希祭(キアラン)─ⅰ
ダールガットは、すぐにも街を上げての祝勝会の雰囲気に包まれていたが、サクラが次に命じたのは、死体の埋葬だった。砦の向こうに広がっていた平原は、畜産業の人々にとっては放牧場としての役割を果たす場所だと聞いていたからだ。
疫病が危惧されたこともあり、火葬してから埋葬することを指示。セルシア軍は全軍で、水の引いた平原の一角に死体を集めて火葬し、穴を掘って彼らを埋葬した。それが終わるまでに、半月。
そしてその間にようやく、サクラは街の有力者たちと顔を合わせ、話をする程度の「社交」に応じた。やはり、茶会だ観劇だという場には、行く気になれなかった。
「お疲れ様でしたねえ、クレイセスもクロシェさんも」
サクラよりもぐったりとして見えるのは、多分気の所為ではないだろう。
今日はフィルセインの侵攻により崩壊した建物や、荒らされた場所、福祉系統の立て直しに関する話をするために地方院を訪れたのだが、お茶出しや菓子を差し入れる人員が、上層部の娘たちだった。つまりは、見合いの席も兼ねていた訳だ。
話し合いを終え、営所の執務室に戻って来てからは、二人は珍しくサクラの前で菓子に手をつけて糖分を摂取し、背もたれに首を預けてだらけている。
戦争中のいろいろよりも明らかに、二人はくたびれ果てていた。
それを、近衛騎士隊では最年長のバララトと、最年少のアクセルが、気の毒そうに見ている。
「セルシア騎士団の近衛騎士」というのは、世界中に何十万人といる騎士の頂点、言わばエリートだ。総じて人気が高い。平民出がほとんどだが、地位も収入も性格も申し分ない、これ以上ない婿がねなのだ……という事情を、サクラは営所で仲良くなった料理人たちから聞いた。
サクラは、「モテかたが少女漫画みたい……!」という感動で以て、彼らの災難を鑑賞している。中でもこの二人の人気は異常なほどで、警護から外したほうが良いのではという提案がなされたくらいだ。