Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅹⅲ
「戻ってきて、もらえませんか。王宮に奇襲をかけ、二十人の騎士とシェダルさんの右腕を奪った人は、クレイセスが倒しました。絶対に安全ですとまでは言い切れないけど、今度はきっとあなたのことを守れます。……オフィーリアのことも」
サクラの言葉に、エラルが真剣な目を寄越す。その視線を逸らさず、まっすぐに見返したまま、時が流れた。
ふっと、エラルの表情が緩んだ。そうして剣に手をかけたまま、二人のやりとりから目を離さずにいるカイザルを見遣る。
「そなたの額にあるのは、誓いの証だな。セルシアの従騎士として降ったか」
「降った、のではありません。私は、私の意志でサクラ様の従騎士として誓いを立てました」
「『セルシア』ではなく、この娘に、か」
面白そうに笑みを浮かべたエラルに、カイザルは伝える。
「現在、クレイセス様をはじめ総勢八名の護衛騎士が忠誠を誓っております。バララトとツイードも、含まれておりますよ」
「…………そうか」
彼にとって、それが意味するところは十分にわかったのだろう。
エラルはサクラに歩み寄ると、片膝をついた。
「そなたは恐らく私が気付かぬ術をひとつ、解いてくれた。もうひとつも、解いてもらえるだろうか」
「もうひとつ? でも、ごめんなさい。今は何もおかしなところが見えなくて」
自分の視線よりも少し下がったところにある視線にそう言えば、エラルは笑って言った。
「気付かれにくい様々な術がある。私はどうやらそれを埋め込まれたようだ。フィルセインに降るよう命じる声が常に聞こえる。洗脳するための術であることはわかるが、私にもこれを解くすべはわからない。だが、そなたが縛れば、これはおのずと解けるだろう」
「縛る?」
意味がわからず首を傾げれば、エラルは頷いた。
「私を彼らと同じく『従』として縛れ。そなたのものであるとほかを退けろ。……『従』である以上、そなたが補佐官にと言うのなら、それに従おう」




