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Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅹⅱ

 そうだ、とサクラは思い出し、荷物に踵を返した。

 そうしてひと包みの荷物を取り出し、布をほどきながらエラルに差し出す。


「アプリーゼが持っていた短剣と、遺髪です。ずっとあなたに、返したかった」

 リシュティーノの話を聞いてから、どこかで彼に会えるかもしれないと、荷物の中に入れておいた。


 差し出したものを驚愕の瞳で見つめていたが、やがて恐る恐る、震える手でそれを受け取った。そうして箱に収めた遺髪に撫でるように触れ、エラルは短剣の柄を額に押し当てる。かたく閉じられた目に、サクラは黙って彼の感情の波がおさまるのを待った。


「そうか……アプリーゼは、それでもそなたに心を預けたのだな」

 しばらくして発された言葉に、過去を()ていたのかと驚く。

「エラルさんも、読み取れるんですか?」


「ユリウスほどではないが、強い思念なら読み取れる。彼女がどれほどの思いでそうしたのか……」

 ほんの一瞬、うるんだ瞳が優しげな色をうつしたのに、サクラは安堵した。


「サクラ、と言ったか。私は以前のような力を持たない。役には立てない」

「それに関しては……ちょっと、失礼しますね?」

 言って、エラルの額に指を伸ばす。ユリウスの負の思念を焼き払ったときと同じに、エラルの全身が強い金色の炎に包まれた。


「なっ?!」

 カイザルがサクラを引き寄せようとするのに、大丈夫、と彼を押しとどめる。


 ユリウスのときにはなかった、黒い何かが燃え、焼き切れる感覚をサクラは感じていたが、中のエラルは何が起きたのかというように、呆然とたたずんで己を包む炎を見つめている。


 ほんの数秒で炎はおさまり、エラルが目を見開いたまま呟くように言った。

「これは……力が、戻った、のか?」

「エラルさんを取り巻いていたものを燃やしました。以前と同じ感覚なら、そうだと思います。あなたを、たくさんの鎖みたいなものが(おお)っていました」

「そう……か……」


 エラルは呆然としたまま己の手を見つめ、サクラに視線を移す。


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