Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅹⅰ
「少なくともあと二人、外にいます。ひょっとすると長官は、お戻りにならないかもしれません」
「ほかの場所で安全を確保してくれてるなら、それでもいいんですが。ちょっと心配です」
「自分は部屋のすぐ外におります。何かありましたら叫ぶなり……って、この間は、それが出来ない状況でしたね。うーん……」
悩むカイザルに、サクラは言った。
「今日は湯浴みはもうしないので。この間ほどのことにはならないかと。カイザルさんの部屋、もともとこの並びでしたよね? 気付かれずに戻れるなら戻っていただいて大丈夫ですよ」
「しかし……」
逡巡しているところにイリューザーが起き上がり、グルルルル……と空間に向かって威嚇を始める。精霊が怯えたようにサクラの首にしがみつき、何があるのかとカイザルがイリューザーが威嚇するほうからサクラをかばうようにして、剣の柄に手を置いた。
「! あなた様は……!」
わずかに空気を揺らして、長い銀髪が宙を舞う。カイザルが驚愕の声を上げるのに、イリューザーが飛びかかった。躱した青いローブのそれが男であることに気がつき、サクラは制止をかける。
「イリューザーストップ! わたしのお客さん!」
蝋燭の室内はそれほど明るくないが、彼の容貌ははっきりと見えた。
一九〇㎝ほどの身長に、蒼天を映したような切れ長の瞳。すらりと通った鼻梁に、ユリゼラと同じような抜けるように白い肌。
瞬間移動ってこんな唐突に現れるのか、とサクラは美貌の男をまじまじと見つめ、挨拶をしていなかったことをかろうじて思い出して口を開いた。
「おいでくださって、ありがとうございます。何も出せませんけど、掛けませんか」
「いい。話とは」
長居をする気はない、とばかりに警戒心を隠さないエラルに、サクラも端的に話す。
「まずは、わたしがフィルセインと繋がっていないことを、説明したくて」
「それは、もう承知した」
理知を含んだ低い声がそう言い、サクラの首にしがみつく精霊を指す。




