Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅶ
「法律化しようとも、お嬢様方は実権を持たないとは言え、貴族ですからね。娘可愛さに法の整備を鈍る者もいて、議会ではなかなか『賛成多数』に持ち込めないのですよ」
「うーん……そもそも、自分の好きな人のこと、そういうふうに記事にされちゃったら、みんなにその人の魅力がバレちゃうじゃないですか。それはいいんでしょうかね?」
「そこもねえ……『人気の高い』男性を射止められたほうが、自分の価値が上がると考えられているらしく……好みの男の人気が高くなればなるほど良いのだそうです」
「意味わかんないや……」
言葉に困りながらもなんとか現状を説明してくれたカイザルは、目を丸くしてそう言ったサクラを笑う。
「サクラ様こそ、そういうのに一番興味がありそうなご年齢でしょうに。大体長官たちに毎日囲まれていて顔色一つ変えない女子など、俺は初めて見ましたよ」
理性的な主で助かります、とくっくと声を押し殺す彼に、サクラは軽い溜息をつく。
「甘い台詞のやりとりしてる訳じゃないですし。それに性格的にそもそもそうじゃない人たちでしょう? いきなり甘い台詞ばっかりで日常生活こなし始めたら、何かの毒の副作用かと思うとこですよ」
「あの顔でそういうこと言われたいなあ、とか思わないんですか」
「思わないです。あ、その『ときめき通信』て、ひょっとして『従騎士』は『愛人』みたいな扱いを広めてたりしないでしょうね?!」
「……してます」
「取り締まりましょう!」
「出来るならやってますって」
先程、クレイセスがここが三階であるにもかかわらず、窓から戻って行ったのも納得がいった。彼は自分の身の安全確保のために、窓から「避難」したのだ。窓から下を見れば、二階のいずれにもバルコニーがある。彼の身長や身体能力から考えれば、それらを伝って部屋に戻ることは造作もないだろう。




