Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅴ
「いえ。あなたがどこで歌っても構わないほど、治安を回復出来ればいいのですが。光響を取り戻すことは我々も望むところで、あなたにしか出来ないことです。……その精霊も、羽が光響を起こすごとに元の姿を取り戻しています。飛べるようになる日も近そうですね」
暗がりの中、羽の残響を見ながらクレイセスが言い、サクラの荷物を持ち上げる。サクラも使用するために少しだけ出ていた、細々したものを片付けて持つと、クレイセスのあとに付いて部屋を出た。
三階へと案内される途中の階段上で、サクラは受付から聞こえる「いるのはわかってるんだよ! 金積むって言ってんだろ!」と恫喝する声に、足を止めた。それを、クレイセスが「お早く」と促す。気になりながらも三階へ行けば、部屋の前にはカイザルがいて、早く早くとイリューザーとサクラを部屋に押し込めた。
「カイザル、しばらく頼む」
「承知しております」
言えば、クレイセスもサクラの荷物を置くと、窓から降りて自分の部屋へと戻っていった。
「な……なんか、大変なことになっていたり?」
なぜ窓から、という疑問を含んで聞けば、護衛として残されたカイザルは「説明に困る」という表情で以て苦い笑いを浮かべて言った。
「んー……そうですねえ。ちょっと、面倒なやつらに見つかってしまいました」
「面倒なやつら……? でもなんだか、フィルセインとか収集家とかとも違っていそうですね。そういう殺気じみた警戒のないところを見ると」
言えば、カイザルは笑ってサクラを部屋にしつらえてある椅子に促し、茶器を手に紅茶を入れ始めた。
「サクラ様もですが、これに関しては団長と長官たちも面倒なのですよ。アクセルがまたぼやくことでしょう」
「長官たちが使えないって? 長官たち狙いの何か……もしかしてお嬢様の誰かが追いかけて来た、とかですか?」
あり得そうな、でもお嬢様はそんなことまでするかな、と思いながら言えば、カイザルが愉快そうに笑った。




