Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅳ
サクラのどこかにくっついている精霊は、ずいぶんと精霊らしい見た目を取り戻しつつある。サクラが小さく歌を口ずさむと、精霊の羽が光響し、気持ちよさそうに背を反らせて天を仰ぐ。王都に帰るまでに元に戻れば、ユイアトたちと暮らせるようになるかもしれない。人間の中にいるより王都の森にいるほうがずっと、この子にとってはいいだろうと、サクラはぼんやりと思った。もちろん、帰りたい場所があるなら、そこに返してやりたい。意思表示が出来るようになるのは、いつになるのか。
ぼんやりとしていた耳に通りからざわざわとした人の声が聞こえ、サクラはハッとする。外を見れば人の流れは滞っていて、皆が街路樹を見上げて立ち止まっていた。
(しまった……)
サクラはそろりそろりと窓辺から下に体を沈め、そうっと窓を閉める。
もう夜の暗さの中で、街路樹が美しく、光響していた。
歌ってはならないと禁じられている訳ではないが、自分の居所がわかるというのは、護衛してくれている騎士たちにいろいろ迷惑をかけてしまう。ニットリンデンでは歌いに行く場所はほぼすべて即席の陣営が敷かれていたため、護衛の彼らもいる上に周囲のほとんどに騎士が配置された状態だった。ゆえにそこに気を遣う必要がなかったのだが、移動中は護衛騎士の数も陣営に比べればかなり少ない。極力慎もうと思っていたのに、うっかりやってしまった。戦争をひとつ終えたとはいえ、そこまで気を抜いてはならなかったのに。
反省しているところに部屋の扉が叩かれ、サクラが返事をすればクレイセスが入って来る。
「サクラ、念のため、部屋を移動してください。幸い、ひとつ空いていましたからそちらに」
「ごめんなさい……」
雰囲気はいつものとおりで、怒ってくれてもいいのに、と感情の発露も合わせて、申し訳なく思う。




