Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅱ
「せーれー……おけが、してるの?」
「ううん。怪我はしてないよ。ちょっといろいろあって、心が疲れてしまったの」
「ふうん?」
すっかり興味が精霊に移ったのか、自分からレミアスから離れると、しゃがんだサクラのそばに来た。両手をうしろで組み、腰から右に左にと揺れるようにしていろんな角度から精霊を眺める。手を出してはいけないことは、わかっているようだ。
「あなたが少し、怪我をしちゃったね」
言って、ナイフがあてがわれたところのわずかな切り傷を、指先で撫でるようにして消してやれば、きらきらと輝くエメラルドが丸く開かれる。
「おねえしゃんも、ふしぎなこと出来るの?」
「少しだけね。あなたのお父様は、たくさん出来るんだよね?」
「うん!」
誇らしげに笑って答える幼女に、「お嬢様!」と眉間に皺を寄せてレミアスが牽制しようとするのを、クレイセスが視線で圧する。サクラは一連のやりとりを横目に見ながら、幼女との話を続けた。
「あなたのお名前を訊いてもいい? わたしはサクラっていうの」
「オフィーリア」
「オフィーリア。オフィーリアはお父様と会うことはある?」
「ときどき。おとしゃまは、いろいろいそがしいの」
「そか。なら、次に会えたときに伝えてもらえる?『サクラが会って話がしたいと言っていた』って」
「シャクラが、会ってお話がしたいって言っていた」
繰り返す幼女に、サクラはいい子ね、と笑う。日本語で言うところのサ行の発音にときどき残るたどたどしさが、愛らしく聞こえた。
つやつやの銀色の髪に、透明度の高いエメラルドの瞳。ほめられて笑った顔に、サラシェリーアの面影が見えて。
サクラは思わず手を伸ばし、ぎゅっと抱き締めた。
「オフィーリア。会えて嬉しかった」
名残惜しい気持ちで放し、レミアスに向き直る。




