Ⅷ 新しき補佐官─ⅹⅰ
クレイセスは市場の店主やら買い物客やらに囲まれていたが、サンドラとサクラがそれをかきわけて彼のほうに行こうとすると、クレイセスはわかっていたのか、説明されずとも幼女を抱えたまま、サクラに向かって人垣を抜けた。
「ありがとうございます……!」
レミー、と呼ばれていた女が足を引きずりながらついて来ると、幼女を受け取って抱きしめた。幼女は安心したのか、ぐすぐす言いながら女にしがみつく。
サクラは二人を見ていたが、しゃがんで女が血を流しているところに手を翳すと、その傷を治す。一見して刃物傷で、この騒動に巻き込まれて切られたものだろう。
「あの……?」
幼女を抱いたまま、不思議な表情でサクラを見下ろす彼女を見上げ、サクラは少し笑って言った。
「レミアスさん、ですか?」
「は……あの」
「聞いていただきたい話があります。アプリーゼのことについて」
名を出せば、瞬時に顔がこわばる。
サクラは警戒を解いてもらえるよう、優しく話す。
「あなたたちが望むのであればこのまま保護したい。放っておいて欲しいというのでしたら、干渉はしません。でも、ひとつだけ、教えて欲しいことがあります」
「あなたは……まさか」
セルシア、と音をなくした唇が形を作ったのに頷けば、レミアスは後ずさろうとして失敗し、幼女を抱えたまま尻餅をつくような格好で震え、しゃがんだサクラと目を合わせた。
「世間的に、彼女の立場は苦しいものになってしまいました。名誉の回復も、いずれは図りたいと思っています」
サクラの言葉に、レミアスの瞳には困惑が浮かぶ。
抱えている幼女を守るように頭を肩口に押しつけるが、その幼女はむずがって頭を上げると、泣きはらした顔でサクラの────背中に張り付き、肩から顔をのぞかせている、精霊を見た。




