Ⅷ 新しき補佐官─ⅹ
そのすぐあとから、小さな女の子にナイフを突きつけたまま人垣を抜けた男が現れ、仲間が転がっている様にうろたえる。転がった男とクレイセスを怯えた目で交互に見遣ると、自分には人質がいることを思い出したように、ナイフをきつく幼女に押しつけた。
銀髪の幼女は、「レミー、レミー」と泣いていて、人垣のほうに手を伸ばそうとする。この事件を見守る多くの人の中から、足を引きずりながら出てくる金髪の女性が現れ、「お嬢様!」とナイフを押しつけられている姿に焦る様子がうかがえた。
「ど……どけ! こいつが殺されてもいいのか⁈」
言いながら、クレイセスに吹っ飛ばされて気絶した男の頭を足で小突き、覚醒を促す。しかし転がった男は、ピクリとも動かない。
クレイセスの表情は見えないが、怖がって泣く幼女に「うるせえ!」と男が一喝した次の瞬間。
「ぎゃああああ……!」
二刀の手離が男の手首と肩に突き刺さり、悲鳴を上げたところに素早く向かうと手刀で男の意識を落とした。男の悲鳴は瞬時にやみ、崩れる男から危なげなく幼女を確保する。幼女の泣き声だけが響き渡る静かな空間。衆目はあまりに鮮やかに片付けられたそれに呆気にとられていたが、少ししてどっと拍手が湧き起った。
「もう近付いてもいいですか?」
「え? 行きたいのですか?」
サンドラのマントを引っ張って言えば、意外そうに聞き返されてサクラは言った。
「多分……あの子です」
「え?」
「報告された侍女の名前は『レミアス』です。あの子は『お母さん』じゃなくて名前を呼んでる。侍女は金髪で三十くらい、子供は銀髪で、三歳くらいだと聞いています。顔がわからないけど……あの子が多分、サラシェリーアの娘です。それにあの女の子。間違いなく力があります。若草みたいな色の炎が見えるので」
わざわざ衆目の中に駆けつけたい理由を言えば、二人は納得した。
サンドラがサクラに付き添い、クロシェが転がった男二人のうしろ手に縄をかける。




