Ⅷ 新しき補佐官─ⅶ
「その流れ者の異能の子って、男の子ですか、女の子ですか」
「女の子だよ。母親と二人暮らしで、ときどきここにも買い物に来る」
「住んでる場所とか……わかりますか」
「詳しい住所までは知らないが、階段の上っつってたかなあ。この通りずっと抜けてった先だよ。住宅地は山の斜面を利用してっから、階段と坂ばっかりなんにー」
店主の答えに、「ありがとうございます」と軽く頭を下げれば、クロシェが「行くのですか?」と問う。
「行きたいです。違うかも知れないけど、そうかもしれない。でも直感を大切にしていいなら、その子に会いたいです」
言えば、わかりましたと応じてくれる。
「い……いいんですか?」
「ここでダメだと申し上げて、抜け出されるくらいならお連れします。それに、それほどお気になさると言うことは……サラシェの娘の可能性を、感じておられるのでしょう?」
クロシェの推理に頷けば、彼は少し微笑んで言った。
「今から動けば夜になってしまいます。クレイセスに話して、明日の朝行ってみましょう」
「……ありがとうございます!」
気付けば確かに外は暮れかかっていて、夏の華やかな夕暮れの空色だ。
サクラは手にした予感を胸に、どきどきしながら宿への帰路へとついたのだった。
*◇*◇*◇*
翌早朝。まだ街全体が朝靄に包まれる中を、サクラはクレイセスたちと精霊だけを連れて「流れてきた異能」が住むという階段上の住宅地に行った。
肉屋の店主が言ったとおり、急峻な山の斜面に家が密集している。そしてどの家の屋根も斜めで、聞けば雨水を溜めるための仕組みだとかで、サクラはへえ、と右に左にと傾いた屋根が並ぶ全景を見渡した。確かに、井戸はそれほど数を見ない。岩盤が固い場所が多く、掘り進めないためにこの仕組みが生まれたというのは納得がいった。
それだけに、毒された井戸を浄化してみせた子供は、噂になりやすかったのだろう。




