Ⅷ 新しき補佐官─ⅴ
サクラは食料品の買い出しに付いてきていて、見たこともない食べ物がたくさん並んでいるのにまたきょろきょろしてしまう。
サクラが食料品側に行きたいと言ったので、クレイセスがカイザルと武器や蹄鉄の補充に行き、あとは全員がこちら側だ。サクラは店主と交渉しているサンドラを、横で興味深く眺める。いろいろな話をしながらこのあたりの情報を引き出していき、ある程度互いに胸襟を開いたところでまとめ買いの値引きを切り出す、その話術にもさすがだなあと仰ぎ見た。
店を変えれば、また違う騎士がそうして交渉していく。
「サクラ様、召し上がってみたいもの、ないですか?」
アクセルが訊くのに、「よくわからなくて」とサクラは苦笑した。
「辛いものは苦手です」と、この世界で最初に伝えた味覚についての注文は忠実に守られていた。今までに出された料理の名前はほとんど覚えられなかったが、どれも美味しくいただけたし、もの申したいと思ったことはない。
「見てるだけで楽しいので」
答えれば、アクセルは少し考えて果物の二つを指さした。
「例えば、こっちはリグというんですけど、酸味がありますが瑞々しいです。あっちは俺もよく知りませんけど、どっちもこのあたりでしか食べられないものです。あ、この干し果物も美味しいですよ。甘さがさらっとしてるので、お口に合うかと」
アクセルの説明に、「買っても大丈夫なんでしょうか?」と聞けば、「その辺のことはご心配なく」と会話を聞いていたサンドラやツイードに失笑された。
「この通りの店丸ごと全部買って欲しい、とかでない限りは、対処出来ますよ。気になるものがあれば仰ってください。この土地でしか食べられない物というのは、貴重な味覚体験になるかと」
サンドラに言われ、そうかいいのか、と買うつもりで眺めれば、やはりアクセルが説明してくれた果物が一番興味を引く。それを伝えれば、サンドラがいずれもみんなで味を見る程度の量を買ってくれた。




