Ⅷ 新しき補佐官─ⅳ
イリューザーが丸まるのを見計らったかのように、部屋の扉が叩かれる。背中にいた精霊がイリューザーに飛び移り、鬣に潜ったのを見て、サクラは改めて布を巻いて髪を隠し、呼びに来たアクセルと二人、階下へと降りた。
バララトとビルトールを留守番に、一行は必要なものを揃えに出る。
この街はユーシュノンザと言い、ニットリンデンと規模が同じくらいの街だ。ダールガットほど大きくはないが、それでも結構な賑わいを見せている。
堅牢な石造りの通りには武器や蹄鉄、宝石類などを取り扱う商店が並び、鮮やかな布張りの店が並ぶ通りには食料品が売られている。
道幅は四メートルくらい、皆で軒を連ねるように並んでいるが、布の張り方は均一ではない。いずれもオリジナリティのあるデザインで様々な色合いに染め抜かれた布で、屋根だけを木枠に被せた店もあれば、入り口のみを開けて前面にも布を垂らしている店もある。地面に杭を打って斜めに張っているのもあれば、まるで御簾のように半分ほどを巻き上げたようにしているところもあり、店の形態を見ているだけでもサクラには楽しかった。色合いの鮮やかさや多種多様なデザインは、元の世界よりも斬新で先進的な印象すらある。
客層も様々だ。やっとすれ違えるほどの人出の中、一見して商人とわかる者、制服のようなデザインの服を着ている者は多分、貴族の使用人だろう。艶やかに着飾っているのは貴族だろうが、平民の母親と思われる女性たちも、着ているものは貴族に負けないほど鮮やかだ。連れられている子供たちも、男女ともに明るくて可愛い恰好をしていて、ラッツィーにあんな服似合いそうとか、クリムにはああいうの着せたいなあとか、男の子の恰好についてはわからないのもあってそれほど感慨はなかったが、女の子の服装には大いに惹かれるところがあった。
「サクラ様、行きますよ?」
アクセルに言われ、立ち止まっていたことに気がつき慌てて足を動かす。




