Ⅷ 新しき補佐官─ⅲ
サクラは思う存分馬上できょろきょろしたし、この戦いを経て以前よりずっと親しくなった騎士たちと、たくさん話もした。行きに比べて馬上で眠ることもなくなり、「体力がついたようですね」とサンドラに言われたことが、己の成長に感じられて嬉しかった。
「今夜はあそこに宿泊します」
ニットリンデンを出て十日目。
街の中でそう言われ、一緒に騎乗しているクレイセスの視線の先をたどれば、白い三階建ての石造りの建物が見える。
「めずらしいですね。こんな街中で宿泊するの、初めて」
「以前は宿泊する先々にあらかじめ必要なものを用意させておきました。ですがひょっとすると、それがあなたの足取りをつかむ手掛かりになってしまったのかもしれないと。今回はそれをしていません。このあたりで一度、補充をしないといけないのですよ」
「じゃあ、お買い物行くんです? 付いて行ってもいいですか?」
「構いません」
やった、とサクラは小さくガッツポーズをする。土地土地で流通している物を見るのは、それだけで楽しい。何が欲しいということもないが、活気の中にいるのはそれだけで気持ちが上向きになる気がした。
サクラは部屋に荷物を降ろすのを手伝い、イリューザーに水をやる。移動中はイリューザーを囲むように動いているのでそれほど人の目にとまることはないようだが、宿泊手続きのために連れて入れば、大抵の宿の主人は腰を抜かすか硬直するところから始まる。ただセルシアがオルゴンを従えている話は有名なようで、小柄なサクラが黒髪を見せて挨拶をすれば、一行はむしろ歓待された。
案内された部屋の中でイリューザーの足を丁寧に拭いてやり、全体を軽くブラッシングしてやれば、すぐにあくびをして寝る体勢に入る。夕飯が与えられるまで、こうして部屋で大人しくしているのがイリューザーの常だ。




