Ⅶ 積もりゆく真心─ⅹⅸ
「おや。曇ってきましたね。一雨きそうだ」
ニットリンデンには、数日に一度、雨が降る。降り方がとても激しい訳ではないが、天気が変わるときは早い。
「ちょうどいいかも」
オクトランにいるときに学んだ。雨に光響を誘起出来れば、広範囲の土地を一気に浄化出来ることを。ただ、サクラの気持ちに乱れがあると、雨はなかなか反応しないことも、幾度かやってみてわかったことだった。
「バララトのおかげで、今なら出来そうです」
立ち上がり、サクラは降り始めた雨の中に歩み出ると声を放つ。
多くの「忠誠」が向けられていることへの感謝。
子供たちへの想い。
彼らが安心して生きていける未来を手にするために、今自分は頑張りたい。
自分の行動が確実に「今」を形成する流れとなっていることが、実感としてある。それは恐れもあるが、手応えとして、サクラの心を律してくれるものでもあった。
雨は光響を起こし、優しく大地を潤していく。
ユイアトは言った。水はすべてをわたっていけると。
ならばこの雨が、この土地の癒やしとなる浄化の一手になるといい。
歌いながら、胸元でもぞもぞする精霊を出してやれば。
雨に濡れた精霊は嬉しそうに羽を広げて光響を享受する。
「!」
トカゲのようだった姿が淡く光を帯びて、明らかな人の形に変化する。一息に十センチくらいまで成長したそれは、小さく口を動かした。
「さ……ら」
真っ黒だった目も深紅に変わっており、サクラは思わず顔を近付けて凝視する。
キィ、と小さく鳴くことしか出来なかった声も、今確実に、自分の名を呼ぼうとした。
「名前……覚えてくれたの?」
まだ飛ぶことは出来ないのか、精霊はサクラの掌でじっと見上げると、腕を伸ばして頬ずりをするようにして、顔に取り縋った。




