Ⅶ 積もりゆく真心─ⅹⅵ
「使用人でした。ですがね、サクラ様。使用人に手をつける貴族など、珍しくないのですよ」
「そー……なんですか……」
それならば、とサクラは沸いた疑問をバララトにぶつける。
「じゃあなんであんなことさせてたんでしょうか? アスティーが来てくれたのだって、ラッツィーが売られてしまうからだって……自分の子供なのに、売るんですか?」
解せない思いで聞けば、バララトは落ち着いた声音で頷いた。
「残念ながら。子供は自分の『所有物』だと勘違いしている親もまた、珍しくないのですよ。極端なところでは、自分と違う人格であることすら認められないという者すらいるくらいです。……そんな人間は、親になる資格などないように思うのですがねえ……」
しんみりと言ったバララトの髪を、風が揺らしていく。
セルシア騎士団は、日本でいうところの警察や自衛隊に近い働きをしている。彼がどんな部署を異動してきたかまでは知らないが、多くを見てきたであろうことは、今まで会話をしてきた中でも、彼の時機や人を見る動きからも察することが出来た。
「ですからね。あのふたり、サクラ様の従騎士にしていただきたいんですよ。今公爵はサクラ様の手許に引き取られた事実を知りませんが、わかれば取り返そうとするかもしれません。そうなったら一度出てしまったこともあり、どんな目に遭わされるかわからない。パッシバル公爵は、良い噂は聞かない人物ですのでね。ですが貴族は『王』と『セルシア』の所有物に手を出せません。従騎士にするということは、所有物であると宣言することに等しい。サクラ様の道徳とは反するところかもしれませんが、そうすることで守ってやれる側面があるのも確かです」
バララトの言葉に、サクラは膝を抱いて顎を乗せ、地面に視線を落とした。
「騎士じゃなくても、それは出来るんですか」




