Ⅶ 積もりゆく真心─ⅹⅴ
言えば、ふふふ、と意味ありげに笑い、バララトは面白そうに言った。
「どこにどんな耳があるのかわかりませんが、王都に戻ってからが楽しみですな。長官たちは言ってみればありきたりだが、私などは異色に映る。あとはサクラ様よりも年下の従騎士など揃えると、余計に面白くなりそうだ」
「その面白さを提供する必要性、全然ないですよね……」
従騎士が「愛人」呼ばわりされているのは知っているが、それならこのニットリンデンで、サクラは愛人を四人も増やしたことになる。いい加減正しい認識をされたいところだが、「騎士」と恋愛することがひとつのステータスのようにご婦人方に浸透している以上、それを改めるというのも難しいだろう。サンドラも言っていた。ほとんどのご婦人は恋に生きてますからねえと。ならばサクラの状態は、彼女たちにとっては夢のような環境に思えるに違いない。
「しかし真面目な話ですが、ふたりほど、『セルシア』の庇護を与えてやって欲しいという願いをもって、推薦したい者はおりますよ」
真面目な顔になって言ったバララトに、サクラは誰のことだろうと首を傾げる。
「アスティーとラツィアです」
「アスティーとラッツィー……? アスティーは、騎士になりたいとは言ってましたけど……従騎士になる必要が? それに、ラッツィーは騎士ではないですし……」
それって出来るんだろうかと首を傾げれば、バララトはサクラの疑問に答えるべく、説明をくれた。
「彼らの出自は、把握しておられますか」
「パッシバル公爵の家に仕えていたことくらいしか。何かほかに、あるんですか」
「クレイセス様は確信が持てずに黙っておられたのでしょうね。アスティーもラツィアも、恐らく公爵の実子です」
「え⁈」
思わず大きな声を出してしまい、サクラは自分の手で口を塞ぐ。
「二人の母親は……使用人て訳じゃなかったんですか」




