Ⅶ 積もりゆく真心─ⅹⅱ
「うえ。フィルセインて、噂での扇動、好きですよねえ……」
「そして面倒なことに元公爵ですからね。彼が発信するとなれば、それだけで真実味を感じる者も多くいるのですよ」
「恐るべし階級社会……」
げんなりしたサクラに顔を近付けようとしたデュエルが、アクセルによって腕一本で阻止される。
「お前、いつか長官の誰かに斬られるぞ? ほどほどにしとけ」
「そんなヘマしない。金蔓には愛想よくが信条なんだ。あんな上位貴族そろってるとか、もう財産の山にしか見えない」
「お前のその姿勢が見え見えなんだよ」
それこそ同じ年とあって話しやすいのだろう。疲れると言いながら、アクセルの心底心配そうな口調に、サクラは和む気がした。
サクラは溜息をつくと、「もう危険なことしないでくださいね」と言い、踵を返す。彼と関われば、きっとまた危険を冒す。もうこれきりにしたほうがいいだろうと歩き出せば、「ちょっと待ったあ!」とすごい勢いで前に回り込んで来た。足が速いのは事実のようだと、サクラはアクセルに比べるとまだ少年の面差しを残すデュエルを見上げた。
「結婚がダメなら、俺のこと飼わない?」
「飼わない」
「情報屋って、必要だろ?」
「間に合ってます」
「間に合ってないじゃん。フィルセイン領に潜った騎士、みんな狩られてんのに」
悪気はないのだろうが、サクラはその言い回しに軽くデュエルを睨む。
「いいね。そういう顔もそそられる」
「そうやってからかわれるのは好きじゃありません」
「からかってない。俺の本気を本気に受け取ってないのはサクラのほうだ」
笑みは絶やさず挑戦的な目でそういうデュエルに、サクラはげんなりした。
「参りましょう、サクラ様。日没までに回れなくなります」
バララトが促したのに頷けば、デュエルが「何なに?」と興味の眼差しになるのに、アクセルが隙をついて軽く羽交い締めにする。サクラはバララトと一緒に走り出し、デュエルから逃走した。




