Ⅶ 積もりゆく真心─ⅷ
「それでも、彼のように慕う騎士は結構いますよね。人間的には、そんなに嫌な人じゃないってことだと思いたい……」
和解を探りたくとも、今のところサクラは攻撃しかされていないことを思えば、彼の人間性に対して少しでも望みを持ちたいということかと、クレイセスは少し笑って言った。
「嫌な人、ではありませんでしたよ。あまり口を開かないので、何を思っているのかはさっぱりわからない人でしたが。職務は淡々とこなし、指示は無駄なく最低限、といった風でしたね」
クレイセス自身、エラルがセルシアだった時分に不快感を与えられたことはない。姿をくらましたままである無責任に腹立たしさを覚えはするが、理由が騎士を守るためだったと言われれば、近衛として危なげなくそれを排除できなかったことは、申し訳なくも思う。
「クレイセスは、エラルさんの時代に団長になったんですよね?」
「ええ。私を瀕死に追いやってくれたあの暗殺者、瞬間移動も可能で、王宮に何度も奇襲をかけてきたのですよ。たった一人でやってのけるのですから、腕は大したものです。補佐官たちを暗殺の手から守ろうと、騎士団は躍起になっていました。ですが二十人ほどが亡くなった。力及ばず、補佐官たちも三人を亡くしました。シェダル殿が右腕をなくしたのも、エラルへの襲撃を防いだ結果です。無傷に守れて相手に手傷も負わせたが、シェダル殿はそこで辞職を申し出ました。今後への不足と、二十人の騎士を失った責任を負って」
ついでに言えば、リシュティーノのいない王宮からは去りたかったというのもあっただろう。それはサクラも察しているようで、クレイセスは黙っておく。
「今、近衛騎士隊……特にあなたの身辺を守る護衛騎士は三十人ですが、本来は五十人いるのですよ」
「え? じゃあ……亡くなった二十名、それから人事はなかったんですか?」
目を丸くするサクラに、クレイセスは頷いて理由を説明する。




