Ⅶ 積もりゆく真心─ⅶ
「館が襲撃されてからというもの、そこで人影を見た者はいないそうです。もともと人里から少し離れた森にある館でしたので、その後の行方も掴めませんでした。そこで暮らしていたのは夫婦者らしき銀髪の男女と、同じく銀髪の三歳くらいの娘、侍女らしき三十歳くらいの女だったと、ときどき出入りしていたという商人の証言が得られたに過ぎません」
メトリオの説明に、侍女が娘を連れているのだろうかとクレイセスは子供の行方を思う。
「その子の特徴とかは、わかりますか」
「銀髪に緑の目をしていたと言います」
恭しく答えるメトリオに、サクラは質問を重ねた。
「侍女の特徴も、わかりますか」
「年は三十くらい、金髪に茶色の目をしていたと。侍女と二人、森を散策することは多かったようです。娘は『お嬢様』と呼ばれていたので名はわかりませんでしたが、侍女はレミアスと呼ばれていたそうです。これは森で暮らす猟師から聞きました」
レミアス、と呟き、サクラは二人に関する質問を終えた。それからはメトリオを椅子に座らせ、ルースベルヌの土地の様子や人々の暮らしぶりなどを質問し、捜査方法や苦労話に耳を傾ける。
「そう言えば、フィルセインの手の者がセルシア候補として王宮にいるという噂には、会いませんでしたか」
ふと思い出したように問うた言葉に、メトリオは首を振った。
「その件に関しては、団長にも言い付かっておりましたので営所にも顔を出しました。ですがあくまでも噂であり、選定なされたときにあれほどの奇跡を起こせる者が、フィルセインの手の者であるはずがないと……噂そのものがすでに鎮静化傾向にあり、出所もつかめぬ状態でした」
「そう……でしたか」
「恐れながら、エラル様は決して浅慮な方ではありません。妻女に術をかけてまでそうと信じた理由は、噂ではなく、個別に示されたなんらかのことがあったのではないかと」
「個別に?」




